「あー、それってさ、確かに稼ぎいいよね!」と、彼はニコニコしながらうなずく。でもそのあと、ふっと肩をすくめて、まるで秘密を教えてあげるみたいにこう続ける。「でもね、それって労働収入でしょ?」
なんだか「ふふ、まだまだわかってないなぁ」って感じの笑みを浮かべて、さらに一言。「アムウェイはさ、権利収入だから。だから働かなくても入ってくるんだよね~」
こっちは「そ、そうなんだ…?」と、つい相づちを打ってしまうけど、彼はそのまま得意げに話を続ける。まるで「この良さ、まだ君には早いかな~」って言わんばかりに。
アムウェイのセミナー会場、そこには光り輝く未来が待っているかのような熱気が漂っていた。「成功」や「自由」といったキーワードが舞い、講師や上位会員たちは、あたかも何年も先の確実な未来を見せるかのように語りかける。少しでも疑問を抱いたような顔をすれば、すぐさま「あなたの人生を変えるチャンスがここにあるのに、目を背けるの?」と背中を押される。今すぐ決断しなければならない、そんな圧力すら感じるほどだった。
そうして「金銭感覚」を一時的に麻痺させられた子ねずみたちが誕生する。彼らは夢見る目をして、様々なアムウェイ商品を次々にカートに放り込んでいった。高価なサプリメント、キッチン用品、スキンケア一式。あれよあれよという間に、彼らの財布からは大金が吸い取られていく。でも大丈夫。「投資」だと信じているのだから。何しろアップラインからも「これは絶対に後悔しない買い物だから!」と力強い励ましを受けている。
しかし、熱気が冷めた後の現実はどうだったか。商品の山を目の前にしたとき、ふと疑問が頭をもたげる。「これ、本当に必要だったんだろうか?」使い切れない量のサプリメント、妙に高級な鍋。彼らは次第に、自分がいかに一時的な興奮で購入を決めてしまったかに気づき始めた。「権利収入」「自由な生活」といった言葉も、なんだか遠くかすんで見える。
そんな中で、彼らがふと思い出したのは、アムウェイの「100%返金保証」の制度だった。これはもしかして、使えるのでは?と、アップラインには内緒で静かに商品を返品し始める子ねずみたち。返金手続きを進めるごとに、少しずつ本来の金銭感覚を取り戻していくのだった。
しかし、彼らがひそかに返品を進めていることを知ったのは、アップラインの方が先だった。彼のタイトルが危機にさらされることとなり、彼の影響力もまたぐらつき始める。なぜなら、下位会員たちの購買履歴がそのまま彼の「成功の証」としてのステータスを支えていたからだ。子ねずみたちの返品の波が、彼の見せかけの「成功」を崩し始めたのだ。
「夢を信じてくれた子たちが、なぜ?」と彼は首をかしげつつも、それ以上追及することはなかった。というのも、自分の影響力が低下するリスクは痛いほどわかっていたからだ。しかし、現実は冷たい。子ねずみたちは商品を返品した後、もはや彼に見向きもしなくなった。
そうして、アムウェイで築かれていたはずの「人間関係の輪」は、あっという間にほころび始める。夢見た未来の収入もタイトルも、返金保証という現実の前にはあっけなく崩れ去るのだった。