「労働収入? あれはね、使い捨ての稼ぎ方なんだよ」と、親ネズミ会員は自信満々に微笑む。「アムウェイはね、権利収入だからさ。年収で負けてるとか気にしないよ、安心感が全然違うし!」なんて、まるで秘密を教えてくれるかのように言ってくれる。とはいえ、会社員には年間120日以上の休日や有給、育児休暇、誕生日休暇まで、福利厚生が揃っているところも多いし、ノルマが達成できなくても給料が下がらないところがほとんどだ。それでも親ネズミ会員たちは「自由な収入」とか「権利収入」という響きに夢中で、完全な権利収入を手に入れるべく30年も40年も奮闘している。
そんなある日、彼らに試練が訪れる。どうやら下位の会員たちが、ちょっと疲れてしまってノルマを達成できなくなったのだ。そこで親ネズミ会員は、やむを得ず還元率の高い商品を自腹で買い込み、買い取り業者に出してなんとかタイトルを維持しようとすることに。でも、アムウェイの総本山にばれないよう、シリアルナンバーやコードなど身元を隠して転売市場に流してくれる、信頼できる業者を使う必要があった。しかし、いつまでも運は続かないもので、ある日、総本山にその活動がばれてしまい、ついに「クラウンアンバサダー」の地位を失うことになった。
まるで持ち家だと思っていた物件が実は賃貸だったかのようなショックで、「オーナー」として誇りに思っていた地位が、実はアムウェイ総本山の一存であっさり消え去るものだったと気づくことになった。思えば、渋谷の総本山の社長室に出入りし、社長と親しげに話せていたのも、上位会員を「夢」を持たせるための「演出」だったのかもしれない。結局、アムウェイで築いた「権利収入」や「人間関係」は、会社の許可なくして成り立たないものだったのだ。
実は、似たような状況で失脚した会員も少なくない。たとえば、「ダブルダイヤモンドプラチナム」という上位の会員も、自分の影響力を利用して英会話教材を売り出したものの、総本山にそのことが伝わり、通報されてしまって地位を失うことになった。「自由な働き方」と言いつつも、アムウェイには意外と厳しい「内規」があって、ディストリビューターが勝手なことをするとすぐに監視の目が光るのだ。
それに、どれだけ熱心に下位会員たちに買わせても、アムウェイには「100%返金保証」があるため、思い立ったように返金されればポイントも吹き飛んでしまう。せっかく積み上げたノルマも返金でチャラになってしまえば、また振り出しに戻ってしまう。そんなわけで、返金保証を使わせないための「人間関係づくり」が重要で、ただ商品を買わせるだけではダメなのだ。少しでも安心してタイトルを維持するには、絶えず買い続けてくれる会員の数を確保し、さらに返金リスクも抑えながらノルマを達成するための工夫が求められる。
とはいえ、アムウェイの世界もなかなか複雑だ。新商品がアメリカから日本に届けば売上が一時的に上がるものの、その「新商品」が途絶えた時にはまた買い込みの難易度が上がり、次第に「権利収入」の幻想も薄れてくる。
こうして、何年もかけて築いたと思っていた「オーナー業」は、実際は幻だったのかもしれない。それでも、親ネズミ会員たちは、「いつかは完全な権利収入を…!」と信じて、今日もセミナーで夢を語り続けるのだろう。